SEP訴訟での情報開示と機密保護の必要性について

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SEP訴訟での情報開示と機密保護の必要性について

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Statue of elephants balancing Hindu god in India

Anand and Anand特許事務所のPravin Anand氏、Vaishali Mittal氏、 Siddhant Chamola氏は、デリー高等裁判所の最近の判決を分析しました。この判決は、インドにおける標準必須特許の開示規則の進化を明らかにするものであり、日本のステークホルダーに潜在的な影響を及ぼす可能性があります。

CS(COMM)643/2025に関してデリー高等裁判所が2025年9月22日付で下した最新の命令により、標準必須特許(SEP)訴訟における機密保護の枠組みが定められました。同裁判所は、特許権者に対して特許ライセンス契約(PLA)に関する情報をすべて開示するよう命令し、被告側のライセンスグループの従業員が機密保持クラブ内でPLAを確認することを認めました。さらに、インドでの訴訟当事者間の情報開示体制と、ドイツの外国訴訟手続きでの当事者間の情報開示体制において透明性や一貫性を確保するには、取り決めが必要であると結論付けました。

本記事では、判決が持つ2つの側面について解説します。

  • 類似のPLAではなく、すべてのPLAを提出させる命令は適切なのか? 

  • ライセンス従業員を機密保持クラブに含めることにより、サードパーティーの市場情報は十分に守られるのか? 

比較可能性の評価に全PLA開示は不要

当事者の比較可能性は、特許実施者の市場ポジションや交渉を取り巻く要素で評価されます。条件の評価によるものではありません。 

すべてのPLAに対して開示を要求すると、「公正で合理的で非差別的な条件」(FRAND)分析の焦点が希薄化するリスクを伴います。裁判所では、ポートフォリオ内のすべてのライセンスではなく、類似のライセンスを審査してFRAND料率を決定するのが一般的です。類似の契約には、市場ポジション、地理的プレゼンス、製品タイプおよび範囲において被告側にとって同様の位置づけとなるライセンスが挙げられます。類似かどうか(実施者の情報、市場ポジション、ライセンスの範囲が概ね類似しているか)を判断するため、各契約の条件を詳細に確認する必要はありません。

開示命令の前にPLAの関連性評価が必要

先に開示させて後で関連性を判断するのは順序として正しくありません。通常の一連の流れは、最初に記録の関連性や重要性を評価してから、相手方当事者による調査に向けて命令が下されます。本末を転倒させない。すなわち、あらゆる開示は機密保護の下で行われ、これによってのみ妥当性が判断されるとする「正しい順序」で行われなければなりません。

しかし、それでは裁判所や当事者にとって負担になり、訴訟が遅くなります。数多くの無関係な契約を確認することになるからです。

さまざまな裁判所で同一当事者間の訴訟が行われる場合、開示されるPLAには一貫性が必要

裁判所がこの命令を出す根本的な理由の一つは明白で、ドイツの当事者間訴訟における既存の取り決めとの均衡を確保するためです。しかし、原告がドイツですべてのPLAを開示するよう命令されず、関連性のある比較可能なPLAのみ提示していた場合、インドですべてのPLAを強制的に提示させられたら、原告にとっては不公平や不平等な印象になるでしょう。

訴訟手続きの負担や遅延

すべてのPLAを開示させることは、実施者に戦術的な悪用や遅延のチャンスを与えることになります。SEP 訴訟は、ライセンス交渉が引き延ばされ、契約に至らない不満が限度に達した末に提起されるのが一般的です。訴訟は、当事者がFRANDの問題を早急に決断できることに意味があります。

これに代わる補正的なアプローチとして、裁判所や専門家が類似と見なすライセンスに対して開示要求をすれば、FRAND原則に沿ったものとなるでしょう。数多くのPLAを分析するとなると、時間や費用がかさみます。被告は、その気になれば、すべてのPLAへのアクセスを要求し、さらに時間をかけてあらゆるPLAを分析して、FRAND問題をめぐり裁判で争えるよう備えることでしょう。

たいていの場合、すべての記録、関連性や重大性のない記録の開示要求は、法的尋問の性質を有するとして裁判所で却下されます。裁判所の負担が増し、貴重な裁判時間が奪われ、他にすべきことができなくなるからです。

また、その他には、開示の範囲が広がると、訴訟で必要となる範囲外の機密情報が実施者に渡されることになります。ライセンス契約から、関係のないライセンスの価格構造、予定数量、技術計画などが知られてしまう可能性があります。スマートフォンメーカーが、訴訟を通じて競合他者が仮想現実ヘッドセットを近日発表することを知れば、先手を打って発表を阻止しようとするかもしれません。このような情報は、FRAND料率を決定する際の限定的な尋問の範囲を超えています。

機密保持クラブの構成

裁判所は、被告側のライセンス責任者が機密のPLAを確認することを認めましたが、NokiaとPLAについて各サードパーティーのライセンス実施者に通知することを条件としました。裁判所が考案した枠組みによれば、被告側のライセンスグループ所属の特定の従業員がすでにNokiaとのPLAにアクセスしたことを通知された後、当該サードパーティーがそれでも被告側とのライセンス交渉を継続することに同意した場合、それは自発的な意思によるものとみなされます。

しかし、情報開示の結果、サードパーティーのライセンス実施者に先入観が生じた場合、裁判所の枠組みで対処できない可能性があります。情報開示先の個人は、情報を入手したばかりに重要な変更を行うことができる可能性があるからです。

サードパーティーのライセンス実施者は市場競争力を失う立場にある

第一に、ライセンス従業員が、取引条件の交渉やロイヤリティ戦略の策定を担う立場にあります。ライセンス契約には、ロイヤリティ、支払構造、将来的な製品計画開始日予定販売数などに関する詳細情報が含まれます。ライセンス従業員がこれらの非公開情報にアクセスすると、これらの情報により無意識のうちに競合他社との交渉に影響をきたすおそれがあります。

一度知ってしまうと、知る前の状況に戻れないことは裁判所もわかっています。たとえ請負であっても、受領者が競合他社の料金体系や将来のプロジェクトに関する知識に基づいて行動するリスクは残ります。これは、意識的な意図なく行われた場合や、アクセスしたPLAの条件を開示しない場合でも起こり得ます。

どうしてそうなるのか?仮説例として、ライセンス実施者Xの契約を通じて、VRヘッドセットや自律走行車が来年発表されることになり、準備が進められていることを知ってしまったとします。これらは、特定のSEPライセンスが必要な製品でした。企業Y(被告側)が機密保持クラブを通じてこの情報を入手した場合、Yは自社の計画を急ぎ、先に類似製品を発表したり、価格戦略を調整したりして、Xを出し抜くことができるでしょう。これらの情報はすべて、本来Xが秘密としていた情報になります。これは市場における公平な競争環境を損なうものです。企業Yのライセンス従業員がPLAにアクセスしているため、PLA条件について実際に話し合わなくても、このようなことができてしまうのです。

グローバルな慣行では、少なくとも限定的な制限が好まれる傾向

グローバルな慣行では、非ライセンスの個人に対するアクセス権を制限する傾向があります。英国のInterDigital対Oppo訴訟や、後のNokia対Oppo訴訟で、英国裁判所は、限定的請負と包括的請負の妥当性を指摘しました。

包括的請負 は、サードパーティーのPLAにアクセスする従業員からの従来的な請負となります。約2年間(または2年以上)、ライセンス活動を行わないことが求められます。限定的請負では、請負者が契約を確認した特定の取引相手に限り、交渉に関与しないことを誓約することが求められます。

各訴訟の特有の状況によっては、裁判所が包括的請負や限定的請負を規定する場合があります。しかしながら、PLAにアクセスする者は、PLAを確認した取引相手のライセンス交渉に関与してはならないことが裁判所での最低認識となります。このようにすることで、少なくとも取引相手が交渉においてハンディを負うことはなくなります。

裁判所が考案した32段落目の枠組みにおいて、SEP権者、被告側、サードパーティー実施者(取引相手)の利害関係は均衡が完璧に保たれているのか?

32段落目の枠組みはリスクを緩和させることが目的となり、被告側のライセンス担当者がサードパーティーのPLAにアクセスする場合、そのことが当該のサードパーティーに必ず通告されることが要件となります。

実際には、この条件は影響を受けるサードパーティーに対して効果がない可能性があります。アクセス者が特定の取引相手との交渉に関与することを一時的に禁じる「2年間のエンバーゴ期間」(一部の機密保持クラブ命令により課せられる)のようなより厳しい命令とは異なり、今回裁判所が提示した解決策では、被告側の従業員に対して実質的な制限を課すことをせず、サードパーティー(取引相手)に通告するだけで、公判に委ねるものとなります。

つまり、サードパーティーは、交渉者が秘密情報を知っていることを事前に警告され、そのうえでライセンス交渉で当該人物と関与するかどうか選択するという趣旨になります。しかし、これは結果的に問題を招く可能性があります。

  • 機密のライセンス条件をすでに知っている被告側担当者との交渉は、サードパーティーのライセンス実施者にとって心地悪いものかもしれません。そうなると、ライセンス交渉がこう着状態になり、FRANDライセンス契約の締結が行き詰ることになるでしょう。 

  • サードパーティーは、通告後に交渉を進めなくても、明らかに不利な立場に置かれます。被告側の交渉者は、詳細な知識を万全にして交渉の場に臨みます。たとえば、サードパーティーの支払額、受け入れる条件、考えられる戦略情報(サードパーティーの製品計画や価格感応性等)など、前の契約から得られた情報が挙げられます。サードパーティーの交渉力は、スタートから損なわれます。このような不公平な透明性により、将来のライセンス交渉において偏りのある結果がもたらされる可能性があります。 

機密の規格において一層の公平性を保つのであれば、特許権者が自発的に同意しない限り、ライセンス者を機密のPLAにアクセスさせないようにする必要があります。ライセンス者を含める必要がある場合、あらゆる特許において利益バランスを十分に保つには限定的請負が適切です。

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