2024年3月8日、ブラジル特許商標庁(BRPTO)は、省令第10号(2024年版)を公表し、不服申立その他の手続きの処理に関するガイドラインを定めました。不服申立手続きにおける重要な変更点として、審判委員会が第一審での技術分析が不完全または不十分と判断した場合、案件を第一審に差し戻してさらなる審査を行わせることが義務づけられました。これをこの文書では再審査と呼んでいます。
これに続き、2025年5月27日、BRPTOは省令第4号(2025年版)を公表し、第一審の再審査に差し戻された特許出願の処理手続きを詳しく定めました。この新省令の主な規定は以下のとおりです。
拒絶決定を取り消した審判委員会の判断理由は、第一審審査官に対して拘束力を有します。
第一審審査官は、新たな拒絶理由を提起したり、新規の先行技術調査を実施したりできます。
出願は第一審で直ちに拒絶されることはありません。つまり、出願人には新たな拒絶理由通知に対して、少なくとももう一度意見を述べる機会が与えられます。
拒絶理由通知の後に拒絶決定が出された場合、出願人には再度不服申立を行う機会が与えられます。
省令施行状況の分析
BRPTO省令第10号(2024年版)の公表以降、審判委員会は98件の案件を第一審に差し戻し再審査を命じております(BRPTO公報に基づく2025年8月26日時点のデータ)。
技術分野別では、差し戻し案件の大半がライフサイエンス分野の技術分野別審査部門に集中しています。具体的には、これらの案件の65%以上は、以下の技術分野別審査部門に集中して発生しています。
DIALP(食品、植物および関連分野):約37%
DIFAR-IおよびDIFAR-II(薬学):約17%
DIMOL(分子生物学および関連分野):約12%。下記のグラフからもお分かりいただけます。
差し戻しの主な理由は以下のとおりです。
不適切なクレームセットの審査や拒絶理由通知の不明確さなどの形式的誤り。
特許性の基準の誤用や技術的理由付けの不足などの実体審査上の誤り。
判断材料の未熟さ、つまり最終決定に至る準備が整っていない状態。たとえば、拒絶されたクレームセットに第一審で検討されていない主題が含まれていたり、不服申立人が不服申立時に未審査の主題を含む新クレームセットを提出したりした場合などが該当します。
現在のところ、差し戻された案件の38%が、再審査の過程で、すでに第一審からの技術的な意見書を受領しています(下記グラフ参照)。
第一審に戻された案件のうち、95%は当初の審査を担当した同一審査官によって再審査されています。この運用は、支障がない限り審査官の継続性を維持するよう推奨する新省令の方針に沿ったものです。
再審査では、審査官は審判委員会が決定で指摘した点に重点を置いて技術分析を再開しました。いくつかの事例では、審判委員会の勧告に基づいて実施された新たな調査により特定された、または従来考慮されていなかった先行技術文献を踏まえた特許要件の評価が行われました。必要に応じて、未審査事項や従前の審査で理由付けが不十分だった点に対処するため、新しい技術的な意見書が出され、出願人にはそれに対して反論を提出する権利が与えられました。さらなる問題点が認められなかった案件については、直ちに特許が認められました。
差し戻しを受けた後、第一審が新たな判断を下すまでにかかる期間は、平均しておよそ5か月です。このうち、すでに専門的な意見が出ている再審査案件の約55%をDIALPが占めています。
ここ数年の状況を鑑みると、DIALP、DIFAR I/II、またはDIMOLに分類される特許出願は、審査請求から約4~5年で第一審の決定を受け、拒絶決定への不服申立提出から約4~5年で第二審の最終決定を受けています。
新省令についてのコメント
省令第10号(2024年版)および第4号(2025年版)は、主に不服申立段階におけるBRPTOの案件積滞を解消する目的で公表されましたが、実際には第一審と第二審の間で出願が頻繁に行き来することで、ブラジルにおける特許取得までの全体的な期間を長期化させる新たな手続きを追加してしまっています。
ライフサイエンスなどの主要技術分野では審査請求から最終決定まで平均10年に及ぶ可能性があることを考えると、第一審による再審査で生じるさらなる遅延は、出願人の権利を脅かしかねません。これは残存期間が限られた案件において特に深刻な問題です。出願日から20年という期間制限を考慮すると、差し戻された出願の約40%は、仮に特許が付与されたとしても、特許満了日まで5年未満しか残されていない状況です。